雑誌の営業として日本全国をまわり、数々の地方取材も行ってきたライター小野。縁あって足を運ぶことになった藤里町で出会うものごとを通して、藤里町の魅力や地方で暮らすことについて考えます。
じいちゃん、ばあちゃんちを目指す「ジュニアパイロット」に遭遇
2ヶ月ぶりの出張は、町の中心部が歩行者天国になる夏祭り、「ねぶながし」と2日連続の夏のイベントに合わせて来てみることにしました。
いつも8時55分発の飛行機に乗ることになるのですが、都内にある親戚の家に前泊して、なるべく始発空港に向かい、余った時間はゆっくり朝ごはんを食べたり、仕事をしたりする時間にしています。
さて、そうこうしているうちにどんどん活気が出てくる空港ですが、今回はいつも以上に人がいっぱい。よく考えてみると、夏休みでお盆前、しかも土曜日という好条件に、家族旅行に出かける人は多いに決まっています。
搭乗口で案内を待っていると、誰より早く乗り込んだのは、小さな子供たち。傍らでは保護者が、添乗員に先導されて飛行機に乗り込む子供たちを見守っていました。
添乗員の方に聞けば、6歳以上の子供が1人で飛行機に乗る「ジュニアパイロット」というサービスがあり、この便にはなんと9人もの子供がひとりで搭乗しているそう。偶然2人のジュニアパイロットに挟まれる席になった私は、「何かのときはお手伝いしてくださいね」と添乗員さんに言われ、持ち前のおせっかいモードに。
左右の女の子と折り紙を折ったり、おしゃべりしたり、音楽の聴き方を教えたりしているうちに、あっという間に大館能代空港に到着していました。2人とも祖父母の家にこれから行くと話していて、1人は、「お母さんと離れるのはちょっと寂しいけれど、楽しみの方が大きい!」とキラキラした瞳で話してくれました。もしかしたら藤里町にこうやって来ている子もいるのかもしれません。
のんびり、ゆるり歩行者天国
出張初日の8月5日、夕方4時くらいから町の中心部は歩行者天国になっていました。役場前のステージでは、幼稚園児のダンスや、ものまねタレントの方のショーなどが繰り広げられ、道路沿いでは婦人会や町づくりの有志、クレープ屋さんなどによる露店が並んでいました。
塩焼きのえびや、趣向を凝らしたポテトフライ、子供が嬉しい輪投げや金魚すくい……10に足りないくらいのお店ですが、魅力的な品揃えが多く、ビールが進むこと。店が並ぶ場所の目と鼻の先では、思い思いのグループでバーベキューや飲み会が行われていました。
そして、たくさんの子供達がかけまっていたのが印象的でした。ここで思い出すのは、「家族のように暮らす」という藤里町の紹介文。「おまえんとこの子は、こっちで見てるから」「○○は△△んちの子たちと一緒に遊んでるよ」と声をかけあい、親も子も町なかでのびのび楽しんでいるのです。
田舎といえども、人口1万人を超える町にしか住んだことがない自分にとっては、自治体単位のお祭りでこの安心感は衝撃。私自身も子を持つ親として、ちょっと羨ましくなりました。
先祖が通る道をたどる「ねぶながし」
今回もうひとつ参加したのは、ねぶながし。藤里町では藤琴地区の2つの地域が、毎年8月6日に灯を灯した提灯をかつぎ、笛と太鼓の音に合わせて地域を練り歩きます。
歩みがゆっくりになるポイントがあると思ったら、新盆に当たる人の家の前では、いつもよりじっくり魂を悼むそう。しっとりと厳かな雰囲気が辺りに漂っていました。
文=小野民
小野 民(おの たみ)
編集者、ライター。大学卒業後、出版社にて農山村を行脚する営業ののち、編集業務に携わる。2012年よりフリーランスになり、主に離島・地方・食・農業などの分野で、雑誌や書籍の編集・執筆を行う。現在、夫、子、猫3匹と山梨県在住。