雑誌の営業として日本全国をまわり、数々の地方取材も行ってきたライター小野。縁あって足を運ぶことになった藤里町で出会うものごとを通して、藤里町の魅力や地方で暮らすことについて考えます。
9月7日と8日は浅間神社祭典・藤琴豊作踊り
藤里町と縁ができたといっても、実際に足を運べる機会は限られています。出張スケジュールの選定は、外の人間が町に関わるときに重要なポイント。通常モードの土地を知らなくてはいけませんが、ここぞというイベントを見ておくのも、思いがけない魅力に出会うチャンスです。
春、役場の方が年間の藤里のイベントや、季節ごとの見どころを考えてくださいました。「気球を見られるときがあるよ」、「紅葉もいいんです」、「初夏の山もいいよねぇ」とさまざまな候補が挙がった中で、「やっぱり、9月7日8日は、はずせないでしょう」と太鼓判を押されたお祭りがあったのです。
そのお祭りが、藤里町の中心部で400年にもわたり続いてきたという、「藤琴豊作踊り」。秋田県無形文化財指定も受けている由緒あるお祭りです……が、それは、後から知ったこと。
「毎年9月7日の夜と、8日って決まっているんです。7日に役場周辺に来てくれたら、私ら準備していますから!」と、お世話になっている役場の菊池洋吾さんに言われるままに、とりあえず来てみたというのが正直なところで、これから目の前で何が繰り広げられるかも全然分かっていなかったのです。
艶やかな宵宮、若勢の男前
9月7日の午後18時前、小雨の降る夕暮れどきに町の中心部にやってきました。ちょうど祭りが始まる頃で、慌ただしい様子の菊池さんとすれ違いました。「今年は会計で、各家に回って寄付金を集める役目があるんで、ご案内できずすみません」と声をかけてくれました。「大丈夫ですよ。いろいろ見て回ってみます!」と返事をし、手元にあるマップを頼りに歩いてみることにしました。
……とは言ったものの、少し心細い気持ちでいると、すでに顔見知りになった町の人たちが声をかけてくれます。「宝昌寺で見るといいよ」とのアドバイスに従って、18:30スタートの踊りをまずは見学することにしました。
話は少しそれますが、この日の男性陣の格好は、夏のお祭りのときにも着ていた浴衣姿。みな、揃いの和装できまっています。これがすごくかっこいい。小さな子は3歳頃から参加するという藤琴豊作祭りの衣装は、藤琴地区の男性にとっては着慣れたものなのでしょう。この姿で「駒踊り」を舞う姿や、練り歩く様子に思わず見惚れてしまうのでした。
20分間ノンストップ、驚きの獅子舞の激しさ
さて、話は戻ります。お寺の境内に行くと、演技が行われるスペースをぐるりと囲むように人垣ができていました。ちょうど、「志茂若郷土芸術会」による、笛と太鼓の音色に合わせての獅子舞がスタートしたところでした。
私は「獅子舞」と聞いて、赤い顔に緑色の衣のものを想像してしまうのですが、よく考えたら全国津々浦々、獅子舞ってすごくバリエーションが豊か。藤里の獅子は、予想以上にワイルドなものでした。
円陣になった観衆の中心で、舞う、跳ねる、回る…とにかく激しく動き続ける姿に、目も心も奪われてしまいました。じーっと見入ること気づけば20分ほど。ノンストップに近い状態で舞い続けた獅子のかっこよさったらありません。
「こ、これ、普通の人が踊っているんですよね?」と近くにいた人に思わず聞いてしまいました。それだけ、常人とは思えない躍動感で、度肝を抜かれたのでした。
聞けば、獅子舞、棒使い、駒踊り、奴踊りとそれぞれ役目があるのですが、子どもは本番前の2週間、毎日1時間ほど、大人は子どもが終わった後に練習を続けます。小さい子どもも含め、地域の若勢が中心になって当日に備えるのだそうです。
騎馬に扮した小さな子どものかわいらしいこと、荒々しい若者の騎馬、色気も感じる踊り、笑いが起こる漫才……。このお祭り、なんだかすごくおもしろい!と感じ入ってしまいました。
そして翌日の祭典当日。まずは、このお祭りの資料をいただきに、図書室に向かったのでした。
(後編に続く)
文=小野民
小野 民(おの たみ)
編集者、ライター。大学卒業後、出版社にて農山村を行脚する営業ののち、編集業務に携わる。2012年よりフリーランスになり、主に離島・地方・食・農業などの分野で、雑誌や書籍の編集・執筆を行う。現在、夫、子、猫3匹と山梨県在住。