FUJISATO LIVING COLUMN

  • ヒトビト
  • 2019/02/01

愛知から、藤里へ。

藤里に来たのは、1993年(平成5年)の12月。次の冬が来ると 年経ったことになるのね。もう人生の4分の1余りをここで過ごしちゃったのね。ずっと愛知県の豊田市にいて、主人が定年退職してからこっちに来たの。家建てる10年前にね、もうこっちに土地買ってあったのよ。主人はずっと絶対帰るんだって言ってて。私はもうなるたけ行きたくないって言っ て(笑)。それまでも年に1、2回は藤里に来てたの。山菜の頃とか、お盆とか。でも、墓参りを兼ねて 遊びに来るのと、永住するってのはまた違うからね。友達とかみんな別れてこないといけないし。だけど主人がどんどん話進めて、11月頃に家が完成したって言った ら、正月は新しい家で過ごすって。雪がちらちら降る寒いときでね。冬ってほとんど来たことなかったから、あんなに降ると思わなかった。生まれたのは名古屋市西区浄心っちゅうとこ。小学校1年生のときに空襲が激しくて、それで親戚がたくさんある豊田市に引っ越し たの。今76歳だから、こっちに来たときは56歳くらいかな。雪の降る頃は、あんまりたくさん降ると、あぁ逃げ出したいなぁって思うね。毎日毎日雪の中に閉ざされるっちゅう経験がないものね。ほんで、私の主人は雪があっても気にしないの。私は一生懸命になって片付けてね。地面が見えないと気になって仕方がないのに、そんなに必死になってやる必要ないって、主人は言うの。また積もるんだからって。でも気になってね。雪解けの頃になるとよく近所の人に、加藤さんの家の前はもう春が来たねって言われてたの。

 

ご主人の死を乗り越えて。

主人が亡くなったのが2005年。亡くなったときにはもう、どうして来たんだろう、来なきゃよかったって思って。こんなところに一人だけ取り残されて、まぁほんとにどうしようかしらって途方に暮れて。
主人が11月に亡くなって、その年の四十九日だけ終わらせて、向こう(愛知)に行っちゃったの。法事のときに親類の前で、こんなときに打ち明けるっちゅうのも非常識かもわからないけど、この寒い冬に私一人で過ごすのも耐えられないから、春まで帰らしてもらいたいけどって言ったら、それはいいことだって言って賛成してくれてね。娘も心配だって言うし。 それから冬は、11月くらいから春まで、毎年向こうに帰ってたの。その頃はこっちにいるときでも、お友達とパソコンでメールのやりとりしてね。夕方になると泣けて泣けてしょうがないとか、お父さんの仏壇に恨みごと言ったりしてるってこぼすとね、何泣いたりしてるの!って電話がかかってくるの。心配しないで!私たちがついてるからって。そういう励ましがものすごく力になったの。今はね、あんたのように立ち直りの早い人はもう知らんわって言われる(笑)。あんたたちのおかげだよって。一時は、もう向こうに帰ろうって思ったもの。だけど今ではね、ご近所の方々にもお世話になり、一人暮らしもいいもんだなって思 うようになってきてる。

友達が毎年来てたの。

毎年5月になると、友達がワラビ採りを兼 ねて来てたの。多いときで4、5人。敦賀から船で来るでしょ、丸一日以上かかるのに着 くともう、ワラビ採り行こう!って。半日くらい採って、塩漬けして持って帰って、一年かけて食べるの。長野に行ったときに、1把300円くらいで小さなのを買って食べたけど、やっぱり藤里のワラビの方が美味しいって言うものね。粘りがあって、あのワラビは全然違うって。それが何年続いてたのかな。毎年欠かさず来てたけど、私と同年代だから最近はもう無理だって。 3年半ぶりに松楽(名古屋大須の割烹料理店)の大将にも会ったんだけど、大将は藤里に来たくてしょうがないの。もう何回も来てるんだけど、5月の頃はワラビ、タケノコがあるでしょ。それがお店に使えるん だわ。もう秋田に魅せられたって言って、いっぱい買っていくの。馬肉も向こうでは買えないから、1年に2回くらい送ってあげてる。こっちのものをね、すごく喜ぶの。一緒に採りに行ったワラビも、みんなに分けて送ってやるんだわね。大事にしてるお友達で、うちに 24日間いた人もあったの。帰りたくないって(笑)。うちの主人も登山やってたし、その人も山やってたから、白神山地も3回くらい行ってね。その人、山開きのときにテープカットして、新聞にも載ったのよ。テープカットなんて人生初めて!って、そのときのリボンをリュ ックにつけて、色が剥げるまでつけて歩いとったもん。あと、素波里で美味しい美味しいってサフォーク食べたりね、いろいろ楽しい思い出がいっぱいある。だから私ここで暮らせるの。雪溶けの春は、何より大好き。冬が始まると、今から冬眠に入りま~すってメール送る の。雪が溶ける頃は、一番華やかになって、嬉しくて、楽しくて。バイクにも乗れるし。(聞き手・藤原菜奈)

 

プロフィール
かとう・きよこ
昭和13年3月6日生まれ。愛知県豊田市で育ち、藤里出身のご主人・啓吉さんと結婚。定年後、二人で愛知から藤里に移り住む。

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