FUJISATO LIVING COLUMN

  • 暮らしのタネ
  • 2021/06/30

新緑の世界自然遺産登録エリア


■秋田県藤里町とは 鉄道も国道もない町

 本州ただ一つの世界自然遺産白神山地。藤里町はその中でも奥深い場所にある。ほとんどの町民は、白神から流れでる二つの川の流域に暮らしている。

核心エリアから流れる粕毛川上流部

 白神は、人の手が入らなかったからこそ残った森だ。あまた日本の森に人が入りこみ、気付いたとき原生的なブナの森は希少なものになっていた。本州には世界自然遺産は一つしかない。手付かずの森は、辺境の証しであり、周縁にあったからこそ残ったといえる。
 周縁には古いものが残るという。目をこらせば、山野の恵みと生きる姿を感じることができるだろう。スケジュールに追われ、時間にしばられた日々を過ごしているならなおさらだ。携帯の電波が届かない森を最初に歩けば、不安を覚えることだろう。それは都市に住み忘れかけていた原初の記憶への道しるべだ。幾度も通い、森の声に耳をすませば、大切なものを思い出す場所になるはずだ。

9月に行われる藤琴豊作踊り

 秋田と青森の県境にある藤里町には人口2800人が暮らしている。町内には鉄道や、国道はない。小学校、中学校は1校ずつ、高校になるとほとんどの子供たちは町外に通う。
 町中心部には夜8時まで営業しているスーパーマーケットや、酒屋、金融機関、洋品店や理容室、ガソリンスタンドがある。意外にも飲み屋は多く、歩いていける距離に9軒が営業している。

稲穂実る秋の藤里町

 

 世界自然遺産としてユネスコに登録された地域は約16,971haにわたる。エリアは青森県西目屋村、鰺ヶ沢町、深浦町、そして秋田県藤里町の4つの自治体にある。
 1993年屋久島と共に白神が世界自然遺産になって、早30年ちかく。観光地だと思いきや、入れ込み客数は年間20万人ほどと他の遺産地域と比べて観光客は少ない。鉄道や国道もないため通りすがりにたまたま立ち寄る方も少ないせいもあるのだろう。逆に奥深い白神の風情が残る場所ともいえる。

 

■3年後に起業を目指す志ある方とツーリズム事業の可能性を拓く

 今回募集する方は、世界自然遺産白神の魅力を引き出し、伝え、ビジネスに繋げる気概を持つ方だ。地域おこし協力隊として経験と準備を積み、その先では保全とビジネスの両輪を回していく必要がある。
 3年後の起業を目指すため、採用された方は藤里町ツーリズム協議会(地域限定旅行業者)を中心に活動することとなる。協力隊としての報酬は、生活の基盤を作るための生活保障という位置付けだ。

 

 世界遺産はあっても、町外の旅行会社が造成するツアーへの宿や体験の提供が主で、町にはこれまで旅行事業者はなかった。長年の懸案を解決すべく、昨年登録した着地型旅行業者という枠組みの中で、スキルを磨き、ここに拠点を置き、持続可能な仕事が根づくかの挑戦だ。
 藤里町には恵まれた自然と素材はある。ただ、恵みは大量にはなく、これまで生来の観光地でなかったこともあり、素材を活かし、小さい利益を積み重ねて収益化する旅行事業のノウハウ蓄積が充分でなかった。その課題を共に解決する人材が求められている。

 

■清流荘の灯をつなげたい

清流荘

名物料理だった“ずんだ”

 町には、ホテルが1軒、旅館2軒、民宿1軒、簡易宿泊施設7軒(農家民宿含む)がある。
「白神山地いやしの宿 清流荘」は町を流れる藤琴川に沿って白神山地に向かって奥へ奥へと進むと見えてくる。
 2008年グリーン・エコツーリズムで町を盛り上げようと地区の交流施設を改修し、地域の住人8人で運営が始まった清流荘。藤里町の中でも特に自然豊かな場所で、宿泊利用だけでなく他ではなかなか食べられない山の恵みをふんだんにつかった昼食や夕食を求めるファンも多かった。関係者の年齢的問題もあり、施設はこの2021年3月で一旦幕を閉じた。
 清流荘の取り組みは、場所が不便なところにあろうとも、手作り、藤里の手触りある感があれば、多くのお客様の心に届くことを教えてくれた。この灯をつなげる方向に、ツーリズムの解がないだろうか。加えて高齢化率が秋田県で2番目に高い町にとって、観光宿泊事業の承継の問題を改めて顕在化させた。
 ゲストハウスは一般的に数棟運営しなければ事業持続するための採算が取れないとも言われる。町内に増える空き家の問題の解決法にもつながるか、清流荘をゲストハウス化しての新たな可能性探しもミッションの一つだ。

 

■白神ツーリズムのやりがい

 藤里町の観光協会ともいえる藤里町商工会観光振興係長の土佐憲夫氏は言う。
 「白神山地には、見る人が見ればその潜在能力を感じずにはいられない素材ポテンシャルがあるんです。ただそれを活かすソフトが少ない。より根本には、ソフトを生み出し、販売するプレイヤーが不足しています。もう一段進めるためには、真摯に汗をかき、焦らずあきらめない人であれば、やりがいにもつながると思います。」

土佐憲夫さん

 白神山地に惹かれて2018年、藤里町のツーリズムの仕事についた 神奈川県出身で高瀬由里子氏(商工会観光振興係所属)は言う。
 「森好きになった最初のきっかけが藤里駒ケ岳(藤里町最高峰)だったんです。それまで山登りなんか行ったこともなかったのに。来てみたら、めっちゃジブリっぽいと。ブナの樹木だけでなく、苔むす岩、きのこ。こだまが出てきそうって。
 自然の免疫がゼロだったところに、白神の森がしみ込んできたような。実際に働いてみると、人手も足りず、大変なこともたくさんあります。いろんな人が関わっていて、いろんな考え方もありますから。醍醐味は、世界遺産白神山地に何かを求めてきた方が心から喜んでくれる姿を見ることですね。一緒に熱意もって、やれる方法を考えてくれる人、大歓迎です。」

高瀬由里子さん

 自分ではこうしたいと思っても一足飛びには難しい。けれど、良き仲間とともに、白神のしみ込むやさしさや強さを伝えていきたいと高瀬氏は語る。
 この場所のおすすめポイントとして、白神の現役ガイドでもある高瀬氏のおすすめはクラムボンだという。太陽が清流に差し込んだ時にみられる光の玉で、それを見ると心躍りいつまでの見ていたくなるそう。ぜひ足を運んだなら探してみては。


■白神まいたけを活かした起業家予備軍の募集

水分も少なく歯ごたえも人気の白神まいたけ

 同じく今回募集する協力隊員は、藤里町の特産である白神まいたけを使った起業を目指す人材となる。協力隊の任期3年のうちに、生産・販売・経営のノウハウを蓄積し、任期終了後はまいたけ事業の経営を担い、起業を目指す方を求めている。

 

■白神まいたけの特徴

 その昔、見つけた人があまりのうれしさに踊りだしたとことにその名の由来をもつとも言われる舞茸。
 藤里町のまいたけは、白神山地の広葉樹(主にナラ)の原木をチップにし、菌床栽培したものが白神まいたけだ。その特徴は、他と比べ水分が少なく、天然に近い独特の歯ざわりと風味にある。
 秋田では冬場の鍋料理天ぷらや炒め物のほか、最近は唐揚げといった新たな食べ方も登場している。

■白神まいたけの現状

 生産を担うまいたけセンターで生産される出荷量は年間約24トン。主力は、生まいたけとなり、乾燥まいたけも一部出荷している。スタッフは、現在生産部門が4人、出荷部門のパートスタッフが3名、その他事務が2名となっている。年間を通じて生産され、繁忙期は10月から12月となっている。近隣の道のえきなどで販売されているほか、取引先は首都圏の飲食店などにもわたり、味を聞きつけた方々からのご指名買いもある。

まいたけセンター

 

■突破したい課題と未来

 平成2年に工場が完成し、生産が開始された白神山地まいたけ。大手企業とは比較にならないが一定の認知度もあり、白神ブランドの良質なイメージを活かせる強みをもっている。
 課題は、品質の向上をはかる上で、事業開始以来生産に関わってこられたスタッフが定年をむかえ、生産技術の引継ぎ時期を迎えている点。生産余力はあるため、販路を確保した上での一体的生産体制の調整、新たな付加価値を掘り起こした商品の提供も求められている。
 現在生産を担う藤里町振興協会の成田氏は言う。「求められるハードルは高いですが、生産分野、販売管理分野、新規需要創出分野と順次経験と積むことで、隊員の特性にあわせた起業の形も探っていく予定です。」

■ 同期スタッフ

 藤里町ツーリズムの同期職員をご紹介しよう。地球の平和と里山の持続的発展をかかげる羊川駒乃助氏26歳だ。手付かずの森が好きで、普段は藤里町ツーリズム協議会で町のPRや商品企画をして働いている。その正体は、藤里町特産の綿羊サフォーク種と郷土芸能駒踊りのコスチュームをまとったスーパーヒーローだ。
 2019年町の中学生がご当地ヒーローとして考えたキャラクターを、2020年町商工観光課がブラッシュアップし、ご当地ヒーローとして生み出した。
 彼と共に、藤里が持続できることを証明することもミッションになる。

 

■ここで暮らすということ

 神奈川出身で、現在世界遺産センターで働くインタープリター菅沼慶太さんは藤里町についてこう語る。「(こちらに越してきて)いい意味で期待は裏切られたんです。観光地化されていない自然があり、自然と密着した暮らしが残っていた場所でした。」根っからの自然好きで、北岳の山小屋で働き、アメリカでの生活経験もある菅沼氏。東北の森にあこがれ、実際に暮らしてみてどうだったのだろう。
 「思っている以上に東京との暮らしに違いはありません。まあ、除雪は大変かもしれませんが、それ以上のものもあります。例えば、家に帰ったらドアノブに野菜の入った袋が掛けられていて、名前が書いているわけでもないので、誰にお礼いったらいいのか。わからない時もあったりして。笑」雪深い場所の山菜は太く味が濃いという。雪かきの難儀さの先に、里の人が踊る4月の青空が垣間見える。

■ 担当者として
 「8000年前から続く古き森と、その恵み、山野と生きる里の価値は、コロナ禍を経てますます必要になるものだと考えています。現在人口約2800人。さらに毎年100人ずつ人口が減り続けていく未来はしばらく続きます。けれど私たちはここにある想いをつなぎ、心ある外の方々と結ぶことで、まだまだ可能性はあると信じています。目指すは明るい人口減少です。」(藤里町商工観光課佐々木吉昭)

 白神の森の麓で、森好きを育てるというビジョンのもとで、グローバルな視点を持ち、ローカルに生きるため、藤里町は熱意と真摯さを持ち、共につくる仲間を求めている。

春の岳岱(だけだい)自然観察教育林

 

協力隊募集についての詳細はこちらをご覧ください

http://f-redesign.jp/ikikata/works_entry/2021/06/30/1386/

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