藤里町で子育てをしながらネイルサロンを営む舘岡夏美(たておかなつみ)さん。「自分たちが育った藤里の自然の中で子育てしたい。」そんな地元愛あふれる夏美さんに、Uターンしてネイルサロンを開業するまでの道のりや、藤里での子育てについてお話を伺いました。
店舗内には、細かくデザインされたたくさんのネイルチップが並ぶ。
(後編)
藤里で起業していくこと
最初、この町で起業してやっていくことに意地になってた部分もあって、自分でやらなきゃみたいな。多分みんな「この町で…」「お客さん絶対来ない」って思ってるんだろうなって思いながら、でもやりたいって決めちゃったから動かなきゃみたいな感じで。めっちゃ意地になって必死にやってやってやって、やっと今のお客さんがついてくれて。で、周りの方たちも応援してくれてる感じがすごいあって。それこそ結構夜もやっているので、隣の家の人に車の音とか申し訳ないなと思ったりするんですけど、応援してくださって。本当にありがたいです。
最初、町内のお客さんってほとんどいなくて、ジェルネイル自体もあまり知られていなかったんですけど、最近、町内のお客さんが増えたことが本当にうれしくて。最初はジェルネイルが主流だったんですけど、今はケアのほうで来てくださってる方も多くなってきました。ネイルだけじゃないところで広まって、ちょっとずつ認知してもらってるのかなー?と感じます。まだ全然足りないですけど。
施術中は、お客さんとの会話を楽しみながら。
町内のお客さんの年齢層は、30代~40代が中心です。50代の方も数名いて、ケアで来てくれています。時期によってお客さんが増える時期と増えない時期があります。あと、結婚式がこのコロナ明けでだいぶ再開されて、今年、ブライダルネイルがすごい増えたなと思いました。みなさんやれてるんだなと思って、結婚式。この3年、全然ブライダルネイルやってなかったんですけど、結婚式する人とか友達の結婚式だからとか、結婚式というワードを聞くのが数年ぶりでした。
忙しい分、大切だと思える子どもとの時間
子育てについては、起業するまで3年くらいずっと子どもと一緒で、子育てに集中しすぎていました。その頃を振り返ると、今、お互いすごくいい関係になってて。子どもは多分覚えてないと思うけど、私的には働けてよかったなと思ってます。忙しくなる時期だとあまり子どもとの時間って取れなくて、寂しい思いさせてるかなっていう反面、その分、一緒にいられる時間がすごい大切に思えるようになりました。一緒にいて当たり前だったのが、子どもといる時間が本当に貴重だなって。
忙しい毎日でも、時間を見つけて、自宅の庭でお手軽アウトドア。(写真=ご本人提供)
子どもたちには自然と触れ合ってもらいたい
休みの日はなるべく外に出そうと思ってて、土曜日は私が仕事しているのでパパ(旦那)がとにかく外に連れ出したり、日曜日になると天気のいい日は外に連れて行くようにしています。ただ散歩するだけでも、とりあえず外の空気吸わせたいし、土も触らせたいし水も触らせたいし、いろんなもの見せたいなって思うので。家にいると必然的にテレビとかゲームとかになっちゃう。外に出れば、何かしらゼロじゃないから。なるべく外の自然と触れ合わせたいなっていう感じです。庭の花壇の土触ったり、まだ日が長いときは帰ってきたら家の裏で自転車やストライダーをやらせるみたいな。
自宅裏で遊ぶ子どもたち。ご近所さんもあたたかく見守ってくれている。(写真=ご本人提供)
藤里には、両親や親戚がいなくても戻ってきてたかも。自然環境が大きい。パパもずっと川で遊んでた人で、私のおじいちゃんも父親もすごい釣りする人なんですね。「川、見に行くよ〜」みたいな感じで川に連れて行ってもらったり、山に連れて行ってもらったり、町外でも近場で、自然が多いところにキャンプに行ったりとか海行ったりとか。父がそうしてくれてきたからその記憶があって、なるべく外で自然と触れ合わせたいなっていうのが、パパと私がすごい大きくて。土とか地に触れさせてたい。
藤里での子育て
藤里での子育てについては…小さい頃からここにいるからこんなもんだと思ってるのもあるし、なんとかなっちゃうなって思う。例えばテーマパークとか遊ぶ場所なくても遊ばせられるし、みたいな感じ。例えば、公園ももうちょっと近所にあったらいいなとか、おむつ買うのもお店がすごく近けりゃいいなとか思うけど、言ってもそんな遠くないし、町外に出掛けるタイミングにもなるしって思います。めっちゃ不便すぎるってあまりなってないかもな、私の中では。
町内にお店少ないとはいえ車で行けばすぐだし、ネットもあるし、能代に行くにも大館に行くにも中間地点でどっちにも行きやすいから、私はすごくいいなと思うんですけど。うるさくないし干渉もないし、ストレスはあまりないかも。病院も、能代への30分って私あまり遠く感じなくて。能代へ行けばとりあえず小児科が何ヶ所かあるから、そんなに不便さは感じないなぁ。でも緊急を要する出産とかになると、最初は不安でした。間に合うのかみたいな(笑)。一人目の時は特に。でも、それくらいかなぁ。
週末、サロンの営業終了後に隣町の海岸まで車を走らせることも。1時間かからずに着く。(写真=ご本人提供)
車があるから、車で10分15分だと私は全然苦痛じゃなくて。ただ、免許とか車がなくてこっちに来ると、本当に大変かもしれないですよね。バスも本数が少ないし、秋田市とか能代に行く電車も本当に少ないので、時間の使い方はすごく限られる気がします。今は動けるからいいけれど、動けなくなったりおじいちゃんおばあちゃんになったときにどうなるのかなっていう不安はありますよね。免許返納しなきゃいけないとか。動けてるからまだ全然不便さは感じないですけど。
大切なものがいっぱいある
千葉や能代にいたときと比べて、藤里での暮らしは厚い。厚みが増しましたよね。濃い。日々濃いです、本当に。千葉や能代にいるときは知り合いもいないし、ただ自分の仕事をこなすだけだったけど、こっちに来ると人との関わりも必然的にあるし、お母さんたちとも会う機会があるし、濃いなぁと思います。
藤里に戻ってきて、いっぱい自然と触れ合わせたいなとか、いろんなことを経験させたいとかすごい思ってるけど、やっぱり仕事とかし出すとうまくいかない部分もあったりしてね…。一緒に過ごせる時間がどんどん減っていくなぁと思うから、もうちょっと家族の時間も増やしつつ、お客さんも大切にしたいし、大切なものがすごいいっぱいあって。優先順位をつけたくないけど、日々その日暮らしでやってる感じです。ゆったりのんびり一緒に家族団らんの時間をたとえば日曜日だけでもって思っても、それすらもあんまりできてないなぁって感じがする。けど、その限られた時間を濃く過ごしたいから、1分1秒めちゃくちゃ大事です。
「来てくれてありがとう!」という思いが伝わる夏美さんの笑顔。
<参考情報>
=====
<あとがき>
お話を伺う中で感じたのは、感謝の心。「ありがたい」「大事」という言葉をよく口にする夏美さんは、自分が今いる環境や目の前にあるもの一つ一つを大切に日々を過ごしているようでした。
都会に憧れ、一度は県外に出た夏美さんが、Uターンし、この地に根を張って生きていこうとする思いの中にも、自分を育んでくれたものに対する愛着と感謝を感じます。その姿勢が、今の夏美さんを助け、支えてくれる多くのものを引き寄せているように思いました。
そのポジティブなエネルギーを分けてもらいに、近々自分もネイルしに行きたい!そんな気分になった私たちでした。
(聞き手:わたす研究所 田中真理子、佐々木絵里子)
=====
この記事は「聞き書き」の手法を使って取材・執筆しています。「聞き書き」とは、取材をし、文章を書き、まとめていく際の1つの手法。取材を受けてくださる方を訪ね、その人の人生や知恵・技術について話を聞き、話し手の話した言葉のまま、文章を作成し、編集・整理して読み物にしていきます。詳しくはこちらをご覧ください。