「自分たちの羊の牧場を作りたい」という夢を叶えるため、2021年3月、家族4人で藤里町に移住してきた宮野さんご一家。移住と同時に新規就農し、「宮の羊の牧場」代表となった宮野友美さんに、藤里を選んだ理由や移住前後のお子さんのこと、移住後の藤里での暮らしなどについてお話を伺いました。
宮野友美さんと夫の洋平さん。(写真=船橋陽馬)
(後編)
「宮の羊の牧場」をスタートするまで
移住してから半年後に羊が来ました。ここに知り合いも親戚も誰もいなくて、どこで羊を飼うかってなったときに、役場の方に相談をしました。農林課の方が詳しかったので、お話ししたらいろいろ事情をわかってくれて、かなりお世話になりました。そして、この大野岱(おおのだい)の敷地を勧められて、ここの場所に決まったのが5月頃かな。
前々から話はしてましたけど、やっぱり遠い場所で会ったことない人に貸せないよとか、それはもうどこの地域でも多分あると思うんです。私たちは会社でも企業でもないですし、一個人だし、信用もないので、やっぱりここに来て住み始めてから、初めて話が進んだ感じですね。
8~9月頃には予定通り、羊の親を購入して、仮の畜舎もなんとか自分たちで作りました。それと、自分たちの家は、移住前にお話していたところが引っ越しの1週間前ぐらいに、すぐには住めないというはなしになってしまいとりあえず、3月に移住してくるときには仮の家を用意してもらって、今の家も自分たちで4〜5ヶ月かけて直したりして、9月にようやく入れました。
本当、1年目は落ち着かなかったですね。引っ越した時のダンボールもまた引っ越すからそのままにしてました。子どもたちは何か楽しんでましたけどね。隣のおばあちゃんたちとかも結構声かけてくれるし、すごくお世話好きな感じで、会えばお菓子をくれたり。本当によくしてもらって、1年目はそんな感じであっという間に終わってしまって。
いざ2年目に入ると、初の羊の繁殖・出産が始まりました。仮の小屋がやっぱり仮で、壁もなくて、しかも大雪だったんで“雪すごいね”ってなったんだよね。それこそ心が折れそうでした。やっぱり、除雪作業が必要で、小さい小屋ですけども、すごく小さくもないんで。
雪に埋まりそうだったからいろいろ機械とかも購入して、峠は乗り越えられたけど、峠が終わったらそれで終わってしまった。あとはちょっと自力でやったり、手伝ってもらったりして、なんとか冬を乗り越えられて。
自分たちで作った仮の小屋。
それから羊の出産時期になって、1月の後半あたりから始まって3月ぐらいまで。出産は予定通りの頭数、大体こんなもんかなっていう頭数が生まれて、ちょっと寒かったですけど大丈夫でした。6月に遅い子が最後に1~2頭生まれちゃったけど。予定通り出産を終えられました。
今年(2022年)がもう2年目なんですけど、「元畜」って言われるこれから赤ちゃんを産む母体の羊も追加で北海道から導入したりして、北海道から導入したりしましたが、導入はこれでおしまいの予定です。雄は定期的に替えなきゃいけないんですけど、元畜はあとは自分のところで生産して選んで母体にしていくつもりです。
仮の小屋の中ではかわいらしい子羊たちが元気に駆けまわっていた。
楽しそうな羊たち
町から羊を放牧する土地を借りていて、放牧地というか耕作放棄地だったところです。2ヵ所借りていてそこの整備も初年度から始めてるんだけど、なかなか大変で、もう10年以上放置してるところだから、草じゃなくてもう林みたいな感じなんですよね。木とか草がすごく太くて、でも羊を出せるところがないと餌代もかかるし、羊にとっても良くないので、そこの整備を2年目に本腰入れてやりましたね。ちょっと大変だったけど、夏にはなんとか羊を外に出せるようになって、お肉にする羊以外は外で過ごしてもらったんです。
羊って結構病気に弱いんですよ。なので、外にいる羊たちがちょっと足を傷つけちゃったりして、そこが化膿したりして。外にいる羊たちの管理も大変だったかな。整備された放牧地だったら普通の草が生えるんですけど、私たちはまだ整備途中のところだったので、結構切った枝が飛び出たりしてて、傷がつきやすかったりしました。
でもやっぱり外にいる羊たちは楽しそうだったね。牧草の種を秋に蒔いたので、来年はもうちょっといい放牧地になるんじゃないかなって思ってます。
青空の元、外にいる羊たち。
羊を増やしてますし、生まれた子羊も大きくなって、仮の畜舎には到底入れない数になってたんで、畜舎を作りたかったんです。(終牧に)間に合わせるために、この畜舎の工事も巻きでお願いしました。畜舎を建てるために、新規就農者支援制度を使い、行政の支援もうけることができてとてもありがたかったです。ただ、羊の事業前例が無かったので、手続きなど間に合うかはらはらでした。
今現在、すごく楽になりました。まず、水と電気があるだけでも。前は飲み水はタンクに入れて小屋まで運んでて、旦那は結構力あるからいいんですけど、旦那がいないときとか私が1人でやるときは重たいなって思ってやっていました。仮の畜舎のためにいろいろお金も使いたくなかったので、ちょっとケチって。だから力仕事が多かったんです。
本畜舎に来たらすごくやりやすいんで、逆に今度は時間が空いてきて、来年再来年のことを考えられるようになりました。今後は羊の出荷のことをメインにいろいろ動かなきゃなって。やっと今、スタート位置に立てた感じですね。
現在の畜舎。天井が高く、風通しも良い設計に。
羊を健康に育てる
羊は家畜の中ではたぶん一番優秀だと、勝手に思ってるんです。衣食住が全部できる。着る服やモンゴルのゲルっていうテントとかを作れるし、食べてもおいしいし。毛もお金にできるし、皮もあるし肉もあるし、あとは触って癒されるし。うちは、耕作放棄地を放牧地として使ってますけど、羊は結構厳しい環境でも大丈夫で、食べる草の種類も多いしきれいにしてくれるんで。牛は丈の長い草を舌で巻き取って食べるけど、羊は結構下まできれいに食べてくれるので、牛とかよりも除草能力が高いですよね。うんちも牛よりもポロポロで水分量がすごく少ないので臭いも少ないし、消化能力が高いんですぐに土に帰りやすいんです。だからいろんな面で羊ってすごく可能性はあるんじゃないかなと思います。
教育にもいいと思うし、かわいいし。食べちゃいますけど。そこはしっかりちゃんと飼ってあげて、健康に育てるっていうことが羊を大事に飼ってあげるってことなんで、そこら辺はしっかりブレないようにやっていくつもりです。
友美さんが手作りした看板。畜舎では今日も元気に羊が育てられている。
<参考情報>
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<あとがき>
取材から約1年、羊肉・羊毛のネット販売や毛刈り体験、近隣地域で開催されるイベントへの出店など、精力的に活動を広げている宮野さん。イベント出店では、ほろほろになるまで煮込んだシチューやハンバーガー、コロッケなど、毎回新たに開発したメニューを提供してくれており、地元の人たちも羊肉をさまざまな形で味わい、楽しむことができている。
今回お話を伺って、同じ町内で暮らしていても見えていなかった苦労や想いを知ることができた。壁を1つずつ乗り越えて、理想の牧場のかたちを実現してきていることが分かり、前にもまして応援したい気持ちが強まった。
HPやインスタグラムでは、藤里の大自然の中で羊たちがのびのび過ごしている様子や、宮野さんが開発した美味しい料理たちの写真を見ることが出来る。ぜひのぞいてみて!
(聞き手:わたす研究所 松嶋有季江、根岸那都美)
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この記事は「聞き書き」の手法を使って取材・執筆しています。「聞き書き」とは、取材をし、文章を書き、まとめていく際の1つの手法。取材を受けてくださる方を訪ね、その人の人生や知恵・技術について話を聞き、話し手の話した言葉のまま、文章を作成し、編集・整理して読み物にしていきます。詳しくはこちらをご覧ください。