町唯一の小中学校である藤里学園は、「義務教育学校」というかたちの学校。
今回は、このかたちだからこそ実現している、「藤里学びのスタンダード」という授業スタイルをご紹介します。
関連記事:
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「秋田の探究型授業」の深化版「藤里学びのスタンダード」
国が実施する「全国学力・学習状況調査」で、例年トップクラスを誇る秋田県。
その理由の一つは、「秋田の探究型授業」(※1)という指導方法だと言われています。
従来の、先生が教壇から一方向的に教える知識伝達型・暗記型とは違い、対話を通じて理解を深めていく双方向型の授業スタイルのことです。
大まかな流れは、以下のとおり↓
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①学習の見通しを持つ(めあて・課題の設定)
②1人で考え、自分の考えをもつ
③集団で話し合う
④学んだことをまとめ、振り返る
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このかたちの授業を繰り返し行うことで、主体的に考え、対話を通じて物事を多面的・多角的に見る力を徐々に養うことができるそう。
そして、これから先、予測が難しく変化が激しい社会で生きていく子どもたち世代が必要な力を身に付けることにつながると言われています。(※2)

子どもたちの目に付くよう、玄関口に貼られている校訓。
この「秋田の探究型授業」は20年以上前から県全域で実施され、また、2015年に国がアクティブラーニングを推奨したことから、類似の取り組みが全国でも広がりを見せています。
ただ、藤里町が一味違うのは、「秋田の探究型授業」を深化させた「藤里学びのスタンダード」を独自に策定し、通年、全学年全教科で実施しているという点なんです。
大事なのは「深める」。それを支える義務教育学校という制度
「藤里学びのスタンダード」は、「秋田の探究型授業」の「③集団で話し合う」というパートを、以下の二つに意識的に分けているのが特徴↓
(1)「つなぐ」:1人で考えた意見の交換・共有
(2)「深める」:つないだ意見を広げたり、深めたりする

「藤里学びのスタンダード」の流れ(藤里町教育委員会発行『教育ふじさと』より)※3
意見を交換した上で、先生が子どもたちの思考を揺さぶる様々な問いかけをすることで、より深い対話・議論を促します。
このプロセスを手厚く行うことにより、学びが定着しやすくなったり、自ら「問い」をもつことにつながったりするそうです。
毎日の授業を形式的に終わらせるのではなく、対話を深め実りあるものにしていくのはなかなか大変そうですが、全学年全教科での実施を可能にしているのが義務教育学校という制度に基づく手厚い教員配置。
前回までにご紹介した理由(※4)から、授業の準備に時間を割くことが出来たり、一つの授業に複数の先生が入る「ティームティーチング」を数多く取り入れることが出来たりするため、一つ一つの授業の質をあげることが出来るんだそうです。

校舎北側の窓からは、天気がいいと藤里駒ケ岳が見える。
乗り入れ授業で、より「深める」機会を
藤里学園では、特に、学習内容がぐっと難しくなる前期課程から後期課程への移行期(6年生~7年生)に、そのメリットを活かしてサポート体制を組んでいるとのこと。
校長先生の判断で、前期課程の先生が後期課程の授業へ、後期課程の先生が前期課程の授業に入る「乗り入れ授業」を一部の教科で通年行っています。

例えば、7年生(中1)になると、算数から数学に変わり難易度が高くなることや、英語の授業では表現の幅が広がることを見越して、6年生の授業に後期課程の先生が専科として一緒に入る場合があります。
逆のパターンもあり、前期課程からの学びを生かしつなぐために、後期課程の授業に前期課程の先生が一緒に入ることもあるのだそうです。(※5)
9年間を同じ学校で過ごすからこそ、発達段階や個に対応していただけるのは、なんともありがたいと感じました。

体育館。9年間、様々な行事や体育の授業などがここで行われる。
長くなってきましたので、今回はこのへんで!
ここまで読んでいただいても、実際の様子をイメージしにくい方も多いかと思いますので、次回のコラムでは授業参観で私が目にした様子をご紹介します。
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※1 「秋田の探究型授業」の詳細については、秋田県教育委員会発行「学校教育の指針」などを参照。https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/64125
※2 現代は、変化が激しく複雑で将来の予測困難な「VUCA(読み方:ブーカ)」時代と言われている。VUCA時代を生きるためには、課題設定力や価値創造力、情報編集力、コミュニケーション力、自律性や協調性など、テストの点数だけではない力が求められるとされている。
※3 「藤里学びのスタンダード」については、藤里町教育委員会発行『教育ふじさと』などを参照。KyouikuFujisato.pdf
※4 義務教育学校では、小中学校が別々にある場合よりも、配属される教員数が数名多くなる。また、一つの学校組織のため、校長先生の裁量で前期課程・後期課程をまたいで先生方の授業を行うことが可能。詳しくは、過去の記事(わたけんコラムNo.33~34、リンクはページ上部)を参照。
※5 どの学年のどの教科に「乗り入れ授業」を行うかは、児童生徒の学習の習熟度や教員の人員配置状況を鑑みながら毎年度検討されるため、必ず導入されるわけではない。例として挙げたケースは、2023年の学園開校から現在までに実施されたもの。現場の状況を把握している校長の裁量で、柔軟かつ迅速に決められるという点が大きなメリットと言える。
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文=佐々木絵里子
佐々木絵里子(ささきえりこ)
わたす研究所・代表
埼玉県出身で、結婚を機に藤里町に移住。町役場および地域⼥性陣との協働プロジェクトを経て、2022年わたす研究所として独⽴し、地⽅における柔軟な働き⽅のしくみづくりに取り組む。2023年より藤里町教育委員会委員も兼務。2児の母。




